「お前は頑張った。 見事にその責任を果たしたんだ」
秋生はそう語り始めた。
「俺様の指示にかなり近い配球も出来ていたし球速もそこそこあった。 自慢していいぞ」
「ふ、古河のおじさん……」
春原は思いがけない秋生の言葉に感動している。
「だから後は任せろ! 俺達の本気を、新のバッテリーの力をあいつらに見せ付けてやろうぜ!」
「はいっ! わかりましたっ!」
「よし、交代するぞ! 冬原っ!」
「 『春』原っ!! なにっ? 今の感動シーンって前フリっ!?」
「どうやら古河さんがピッチャーになるみたいだね」
理樹が恭介に確認する。
「ああ、ようやく俺達の力を認めてくれたって事だろ」
「認めたって、なんだよそれ?」
恭介の答えに反応したのは真人だ。
「さっきも言ったろう? 気にする事ではないさ。 私達は私達の試合をすればいい」
来ヶ谷がバットを握る。
「現在二回表、3-0でツーアウト二塁。 裏の攻撃を考えればもう少々追加点が欲しい。
もう一活躍してくるとするか」
「そんじゃ肩慣らしだ。 キャッチャー! とにかく後ろにはそらすなよっ!」
鈴が二塁でリードを取っているのにもお構いなく、秋生はクイックモーションを取らずに
ボールを投げ込む。
バスンッ!! 「ス、ストライクッ!」
「ほう……」
来ヶ谷が息を呑むほどの球速だ。
「言うだけの事はある。 さて……」
カンッ! 「ファール!」
「さーて、こいつでっ!」
ブンッ! 「ストライク! バッターアウト!」
「一丁あがりってな!」
ラストはありえない落ち方をするフォークだった。
「オイオイ、何だ今の?」
「あれはノートに記載されていました古河さんのフィニッシュボールです。
投球フォームにほとんど変化がないので、攻略難度がとても高いようですね」
「上等だ……」
真人は西園に宣言する。
「フィッシュボールだかなんだか知らねえが…この俺が釣り上げてやるぜぇっ!!」
「……頑張ってください」
「え? 無視ですか? 一応今のはボケたつもりなんですが……」
意外と笑いにも厳しい西園。
「そろそろお前らも体があったまってきた頃だろ? ちゃっちゃと点、取り返すぞ!
三点差? はっ! いいハンデだ! 足りない位だろ?」
秋生はムードを盛り上げるのが本当にうまい。
五回までしかない草野球ではすでに中盤なのだが、チームメンバーに焦燥感はまるで無い。
「この回はお父さんからです。 頑張ってくださいっ!」
「任せておけ、愛娘よ。
『あーん、お父さんかっちょ良すぎですー。
あまりにもかっちょ良すぎて、もうこんな小僧っ子なんてまったく目に入らないですー』
って言わせてやるからなっ! 楽しみにしておけ渚!」
「そんな事言わないですっ! 朋也くんはお父さんなんかよりとってもかっこいいですっ!」
「なーーぎーーさーーぁぁ!! 小僧! てめえなんか恨みでもあんのか!?」
「あるかアホッ!」
「年長者に向かってアホとはなんだアホとはっ!」
「秋生さーん!」
応援席から早苗さんが大声で叫ぶ。
「わたしは、秋生さんが、大好きですよーーっ!」
「…俺もだぁぁ! 早苗ーーーーっ!」
「何? このホームドラマ?」
「えと…、なんだろうね……」
杏と椋がその横でなんとも微妙な表情で照れていた……。
「しまっていこーーーっ!」
「「「おおーーー」」」
理樹の号令で二回裏が始まる。
「直枝……期待を裏切ってくれるなよ?」
「え?」
秋生の表情が変わる。
ヒュンッ! 「ボール!」
ヒュンッ! 「ボール!」
(鈴…思いっきりだ!)
理樹が数少ないサインを出す。
指示は…鈴の速球、ライジングニャットボール(最近改めて命名BY恭介)
ヒュッ! 「甘ええええええーーーーーーーーっ!!」
カキーーーーーーーーーーーンッッッ!!!
目で追うまでもない、問答無用の場外ホームランだ……。
「……うそ」
理樹の呟きに秋生が答える。
「ちっ。 まだまだだな。 お前ら、こんなもんか?」
「……」
何も答えられない。
「ま、試合はまだ続くんだ。 腐るなよ、坊主に嬢ちゃん」
と、
がしゃーーーーーーーーーん!!
「「「「あ」」」」
…どこか遠くでなにかが割れる音がした……。