「小賢しいっ!」 

  カーーンッ! 

 内角を執拗に攻めてくる春原のボールを一刀両断。

 謙吾の気合の一言と同時に打たれたボールは、レフトにいる椋の手前に落ちた。

 

「ナイスバッティングだよ、謙吾!」

「よし、三枝。 作戦通りに頼む」

 

 恭介が葉留佳に念を押す。

「ダイジョウブダイジョウブ! 行ってくるねー!」

CLANALI  第二十一話

「はるちん、いっきまーすっ!」 

 やたらめったらバットを振りながら打席に入る葉留佳。 

「さー打っちゃうよー? でっかいよー?」

「こりゃまた騒がし娘がやってきたもんだ」

 秋生は嬉しそうに言う。

「ソーデスヨ! 元気なんですヨ!」

 

  ブンッ! 「ストラーイクッ!」

 ものすごい大振り。

「次こーいっ!」

 

  ブンッ! 「ストラーイク!」

「ありゃりゃ!?」

「ははっ! そんなんじゃ僕の球は打てないよー?」

 

 そして三球目、

   こつん!

 今までの大振りから一転しての技ありバント。 ピッチャーの足元めがけてボールが転がる。

「ピッチャー! 捕球して二塁だっ!」

「え? ぼ、僕っすか!?」

 春原あたふた。

 

 結局ボールを拾って二塁を見た時には、既に謙吾が二塁に到着寸前だった。

 

「あははー! はるちん大成功! スゴイ?スゴイ?」

 

 

 

 

「よろしくおねがいしますー」

「おぅ、今度はちびわんこちゃんの登場かっ」

「わふっ! 知らない間に新しいあだ名がつけられてますっ!?」 

「悪い悪い。 ま、いいじゃねえか。 なっ、わふっ子!」

「またしてもっ!」

 どこまでも弄られ可愛がられるワンコ。

 

  ヒュッ!  こつん!

 初球からバント! ボールは春原に向かって転がっていく。

 すでに謙吾と葉留佳は盗塁を狙って走り出している。 

「ちっ! 間に合わねえ! 一塁だっ!」

 秋生の指示で一塁はアウト。 その間に謙吾・葉留佳は二三塁に。

 

 

「わふーーー。 アウトでした」

「気にする事は無いさ、能美。 任務の指示通りの結果を出したんだ。 胸を張っていい」

「はいっ。 ありがとうございますっ!」

「? でもクー公には胸無いぞ、恭介?」

 真人が素直な感想を漏らす。

「……そんな事言う人、嫌いです」

 ちょいとキャラ変わっていませんか? クドリャフカさん?

 

 

 

 

「私も頑張るよー♪」

 八番、小毬。 笑顔のまま打席に到着。

 

「恭介、小毬さんにはどんな作戦を?」

 理樹が恭介に問いかける。

「ああ、あいつには……」

 

「うわーーーーーーーーーーーーーーーーん!!」

 小毬の叫びが響く。

 見ると小毬はバッターボックスでうつぶせに転んでいる。

 

 …ぱんつ丸出しで……

 

 

 

 

「ひどい目にあったよー」

 結局三振した小毬がベンチで半泣きだ。

 

 初球、バットを限界以上に大きく振った小毬は遠心力に負けて前方に倒れこむ。

 結構転ぶ事が多いのにスカートの丈がとても短い小毬は、

 転んだ勢いで完全にスカートがめくれあがった。

 …一瞬、グラウンド内の時が止まる。

 角度的な問題で、ぱんつ丸出しは秋生・鷹文・リトルバスターズベンチの面々にしか

 見えなかったのだが……

「恭介氏、さすがに今の作戦はどうかと思うぞ?」

「僕も来ヶ谷さんと同じ意見だよっ!」

 恭介に対し、非難轟々。

「待て待て! 俺だって予想外だ! ぱんつ見るために指示を出したように誤解するな!

  俺はただ単に相手の意表を突く為にバットを大きく…」

「それは言い訳だな、恭介氏」

「それは言い訳だよ、恭介」

「違うって! 小毬っ! お前なら分かってくれるよなっ? なっ!?」

 必死になって弁解しつつ小毬にふる、が……

 

「うん、みんな、見なかったことにしよー」

「「「は?」」」

「見られなかったことにしよー。 うん! これでばっちり!」

「「「……」」」

 さっきの件は、無かった事にするらしい。

 

「まあ、なんだ…、とにかく悪かったな…小毬……」

 恭介が小毬に謝るも、

「わーーん! 思い出さないでーーーーー!」

 かえって傷を広げただけのようだ。

 

 

 

 

 

「ツーアウト二三塁か…。 いつの間にかやばくなってやがんな」

 そう言いつつも秋生は次の打者、鈴を翻弄するための手順を考えている。

 なんとかなるか、と結論に達するがバッターボックスに立った鈴が秋生の予定を崩した。

「根性なしなのか? お前は?」

 鈴は春原に向かって突然問いかけた。

「え? 何? 鈴ちゃん?」

「お前は根性なしなのか? と聞いている」

「ちょっ! どういうことだよ?」

「お前はまっすぐな球、直球ストレートが投げられない腰抜けだと聞いた。 怖いのか?」

「そんなこと無いよっ!」

「でもきっとお前はあたしみたいなただの女の子が相手でもおかしな球しか投げれないんだ」

 とんでもなく棒読みな台詞を言う鈴。

「おいおい、嬢ちゃん。 駆け引きか? だがな、そんな感情の入っていない挑発じゃ……」

 秋生はやれやれと諭すが、

「わかったよ! 直球ストレート勝負だ!」

 春原は見事に乗せられていた。

「直球ど真ん中ストレート勝負」

 さらに条件を追加する鈴。

「ああ! 直球ど真ん中ストレート、僕の一番の本気で勝負してやるさ!」

 

「「「あの馬鹿……」」」

 朋也・杏・河南子が同時にため息をつく。

 

「落ち着け夏原! お前は馬鹿だけど、そんなに救いようがない程じゃないだろ?」

「うるさいよ岡崎! それに夏ってなんだよ夏って!?」

 

「やめときなさいって秋原! 相手の思惑に乗ってるだけじゃない!」

「うるさいよ杏! これは僕に挑まれた勝負なんだ! それと秋って絶対わざとっすよね!?」

 

「あー、ナントカ原…だっけ? どーでもいいや。 とっとと打たれて代われー」

「アンタもう適当ですねっ!?」

 

 

 

 

  カキーーーーーンッ!

 

 結局勝負はタイムリーツーベース。

 外野のことみがやっとこさボールに追いついた時には、既に葉留佳がホームに着いていた。

 

 

 二回表でリトルバスターズのリードが続く。

 

 ここでようやく、今までキャッチャーを続けていた男がマウンドに向かって歩き出した。

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