「ちょっと陽平! なんでアンタがそんなとこにいるのよ?」

 杏をはじめとして古河ベイカーズの面々がマウンドに集まってきた。

「ふふーん。 君には理解できないだろうねぇ藤林杏! ついに僕の時代が訪れたって訳さ!」

 ガスッ!

 杏が軽く春原の頭を小突く。

「で? なんでアンタがここにいるの?」

「何事も無かったかの様に話を戻さないでくれませんかね!?」

CLANALI  第十八話

「渚ちゃんのお父さんに頼まれたんだよ。 君にしかこのチームの未来は託せないって」

「言ってねえよ、アホ。」

 秋生がキャッチャーミットを持って近づいてきた。

「妄想もほどほどにしとかんとパンの具にしちまうぞ? あぁ?」

「ひいぃぃーーー! すんませんっ! なんでもないですっ!!」

「お前ほんとヘタレな」

「うるさいよ岡崎!」

「…いいかげんそいつは放っておいて説明してくれないだろうか?」

 智代が秋生に尋ねる。

「ま、ちょっとした悪戯心ってやつだ。 考えてもみろ。 あのチームのメンバーは学生のみだ。

  確かに腕の立ちそうな奴もいるみたいだが、前に戦った大人連中の草野球チームとは違う。

  初っ端からいい大人の俺様が全力投球すんのは大人気ないとは思わねえか?」

「しつもーん」

 河南子が手を挙げる。

「おぅ、なんだ?」

「なんでこの金髪ヘタレなの?」

「ほどよく弱そうだからだ」

「ひどいっすねアンタら!」

「「あぁ?」」

「えー…ほかに質問あるひとー?」

 さらりと意見を飲み込み話題を変える春原。

 

 

「とは言うものの、オッサン。 あんたの事だから負ける気なんてこれっぽっちも無いんだろ?」

 朋也の問いかけにニヤリと笑みを返しつつ、

「よく解かってんじゃねえかよ小僧。 それなりに楽しむのはもちろんだが勝敗は別だ。

  それに勝つなら本気相手に勝たなきゃ意味はねえ。

  こっちの意図があちらさんに伝わったら、どんな反応が返ってくるか。 お前らも想像できるだろ?」

 喜ぶわけは無いだろう。 まさに手加減されているのと同じ事だ。

 果たしてその結果、白けきるのか目に物を見せてやろうと気合を入れるか。

 あのチームなら反応は決まっている。

 

「んじゃポジションに散らばれ! てめえら! 今日は楽しむぞ!」

「「「おぅっ!!」」」

 掛け声とともに古河ベイカーズの空気が変わった。

 

 

 

 

「さて、まずはおねーさんからだな」

 来ヶ谷がバットを持ち出す。

「ゆいちゃん、がんばってね!」

「任せたまえ。 相手がどの様な考えをしていようともこの試合は勝たせてもらう。

  そうはお目にかかれないすばらしいご褒美が待っているのだからな。」

 ことみを持ち帰る気満々である。

「相手の考え?」

 理樹はそう口に出し、真人に尋ねる。

「真人、どういうことかわかる?」

「お? 筋肉関係か?」

「謙吾、わかる?」

 流れる様に真人をスルー。

「いや、ある程度は想像つくが…。 今はまだなんとも言えんな」

「?」

「気にする事は無いぞ少年。 まあ見ててくれ。

  あそこにいる人生の先輩に 「マジかよっ!」 というひねりのない叫び声をあげさせてみせよう」

「わふっ! 来ヶ谷さんからなにかが出ている気がしますっ!」

「オーラだよクド公。 あれはオーラっていうんだよきっと」

「おーらですかー。 すごいですー」

「すごいというか…正直俺は怖いぞ……」

「同感だ」

「「同じく」」

 リトルバスターズ男性陣はそれぞれ過去に抱えた姉御トラウマを思い出していた……。

 

 静かなる力を秘めて、来ヶ谷はバッターボックスへと歩みだす。

 

 

 

 

「お? いきなりアンタか」

 キャッチャーをしている秋生が来ヶ谷を見る。

「出だしからそちらの思惑をひっくり返して見せよう。 覚悟する事だ」

「なんのことだ?」

「フッ、なんでもないさ」

「おー怖っ。 ピッチャー! 気合入れやがれよっ!」

 秋生の激励に対し、春原はいつもの調子で、

「大丈夫、大丈夫! そんなえっちな体つきのおねーさんには僕の球は打てないって!」

「ほう、おねーさんの体はそんなにえっちかね?」

「すごいよ! 『けしからん乳』 っていうの? もう大興奮だよ僕っ!

  それどころか美佐枝さんには無い 『若さ』 だってあるからねっ! 頑張っちゃうよっ!」

 本当に怖いもの知らずな男だ。

 

「いい度胸だ…。 だが、それだけでは何も成す事は出来ない。 思い知らせてやろう……」

 静かなる力、もう臨界点ギリギリ。

 

 

 

 

「プレイボールッ!!」

 鷹文の宣言で試合が始まった。

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