「ってことはあれか? 直枝が『リトルバスターズ』のリーダーって事でいいのか?」
「うん。一番初めに結成したのは恭介なんだけど、今は僕がやらせてもらってるんだよ。まだまだ僕なんかじゃ頼りないかもしれないけどね」
朋也が理樹に尋ねていると、
「そんなことないよー! 理樹くんは立派なキャプテンさんで、リーダーさんなんだよ!」
「わふー! そのとおりですー!」
小毬とクドが理樹に向かって後ろから飛び付いてきた。
「そうか。よく判った。……邪魔しないうちに俺は行くから頑張れよ?」
「ちょっと!? 色々誤解したまま颯爽と去らないでよ朋也さん! 小毬さんもクドも! 誤解されちゃってるよ!? ねぇ!?」
「誤解?」
「……わふ」
理樹の必死な呼びかけにも、ほんわか担当とわんこ少女はよく理解していない。
「……直枝。俺は一つだけしか言えん。予想外だがまぁそっち方面に頑張ってくれ」
「何に!? 何を!? って、そもそも僕だって予想外だよ!?」
「最高潮時の春原並の速さだな……。 まさに予想外だ」
理樹のつっこみの速さに少しだけ驚きつつ、朋也はおかしなところで理樹に感心していた。
「……それでね、理樹くんは、ときどき謙虚さんになっちゃうの。だからこうやって応援するんだよー」
「ぼでーらんげーじなんですー!」
「直枝は困ってたから応援になってない。それとボディな、ボ、デ、ィ」
なんだかんだ言っても、朋也だってつっこみ性能は高い。
出会い頭の問答が功を奏したのか、小毬やクドという初対面な女性陣とも会話をしている朋也だった。
「わーん、駄目出しされたよー」
「ぼ、で、ぃ……ぼ、でえ……」
「おしい。さぁもう一度。ボ、デ、ィ! はい!」
「ぼ、で、い。……ぼ、でい。ぼでぃ! ぼでぃー! わふっ! ぼでぃー!! いえてますっ! いえてますよ私っ!! やりましたーっ!」
「すごい、すごいよクーちゃん! 岡崎くん教えるの上手だよー」
「いや、ぜんぜん嬉しくないが」
「わふーっ! あげておとされましたっ!?」
これはこれで馴染むのが早過ぎでもある。
「朋也くん、わたしもお二人にご挨拶させてください」
頃合いを見た渚が、そんな集団に近寄ってくる。
「こんにちは、古河渚です。よろしくお願いします」
渚の挨拶はとても丁寧な口調だ。相手が年下であろうとも、根本的な口調は変わらないようであった。
「うん、神北小毬です。よろしくね、渚ちゃん」
「能美クドリャフカと申しますっ。こんにちはです」
「渚さんのお父さんは、さっきのおじさん、古河さんなんだって」
理樹の補足に、小毬とクドは満面の笑顔で驚きを表した。
「そーなんだー。とっても面白いお父さんだよねー」
「はいっ! やんちゃさんでしたっ!」
その台詞を聞いた渚は、顔を少しだけ赤らめて。でも、やっぱり満面な笑顔で言葉を返した。
「失礼、貴女が坂上さんか?」
多少緊張した表情で智代に声をかけたのは謙吾だ。
「そうだが、お前は?」
「申し遅れた。自分は宮沢謙吾。以前貴方の話を聞き、是非とも話をしてみたくてな。無礼を許してほしい」
「それは構わないが……。なんだ? 話したい事とは?」
「特になにか、という訳でもないのだが。自分も多少は武道を嗜む者。より高みを目指す指針となるべき人物はいたほうがいい。貴方は武だけではなく文も、更には仁、心に関しても尊敬される人物と聞いた。しかし、誠に修行不足で恥ずかしいが、話に聞くだけではどうも人物像が固まらなくてな」
「それほど興味を引くに値する人間かは分からないが、そう言ってくれるのは嬉しい。……まだ女の子らしさが足りていないのは残念だがな」
「女の子? なんだ?」
「いや、なんでもない。うん、お前は礼儀もしっかりしている。少しお互いの事を話してみるのも面白そうだ。改めて私は坂上智代だ。よろしく」
二人は妙に意気投合するが、やがてどちらともなくため息をついて前方に目を向けた。
「「あいつは、どうにかならんのか……」」
視線の先には元気の塊が二つ。馬鹿と馬鹿がそこにはいた。
「筋肉ーーーいえーーいいっ!!」
「やめてーーーーーーーー!! もう、筋肉は嫌ーーーーーーーーーっ!!」
真人が春原に筋肉固めをかけている。
「おいおい。『僕だって筋肉にはちょっと自信があるんだよね』って言ってきたのはお前だろ? 筋肉仲間として遠慮はいらねぇって!」
「そんな仲間はいやだーーーーーーーーーっ!!」
なんとか筋肉固めから逃げ出そうともがく春原。
砂塵がもくもくと、二人の周囲から立ち上っていた。
「周りに迷惑かけるなーーーっ!」
「んごっ!!」
結局、駆け寄ってきた鈴のハイキックがその騒動を終わらせた。
「まったく! あほかおまえはっ!」
「あ、ありがとう君。助かったよ、ホント」
地面にへたり込んだまま春原が鈴に答える。
「気にするな。こいつが馬鹿なだけだ」
「へぇー、君かっこいいねっ! 名前なんていうの? 僕、春原」
「……鈴。真人、謝れ。弱い者いじめは、めっだ!」
「は、はは……。僕、弱い者なんだ……?」
初対面の女の子からその様に思われて、春原の中からナンパをする意気込みがしおしおと消えていく。
「ま、確かに筋肉はまだまだ足りてねえがな!」
「アンタ復活早いっすねぇっ!!」
「平和ですね……」
「はいっ! そうですねっ!」
そんなグラウンドを見ながら、西園と早苗はまったりお茶会をして過ごしていた……。