「オッサン。これから試合だってのに大変なことになってないか?」
必死になって早苗さんを捕まえたせいか、オッサンの額には滝の様に流れる汗が……。
「へっ、誰に向かって言ってんだ。こんなのブレヰクファースト前過ぎだぜ」
「そっか。良かったな」
「良くねえよ! 突っ込めよ! 労われよ!」
まぁ、十分元気みたいでなによりだ。
「よう、岡崎」
グラウンドに着くや、春原が声をかけてきた。
「藤林姉妹も一緒か。岡崎、今日の面子を教えてくれよ」
「試合に参加するはメンバーか? 俺に渚、オッサンに杏と藤林、ことみ、智代と河南子。早苗さんが応援で、最後にもう一人、鷹文だな」
「カナコ? タカフミ? 誰だよそれ」
「何? 朋也の知り合い? それとも渚?」
春原と杏が説明を求めてきた。
「いんや、鷹文は智代の弟だ。で、河南子はその連れ」
「はい。私も朋也くんも、お二人とは昨日知り合いになったばかりです」
俺と渚の説明に春原は目を細めた。
「ふーん。そいつら戦力になんの? 僕の足を引っ張ったりしない?」
「河南子は問題ないだろうな。ちなみに鷹文には審判をやってもらおうと思ってる」
「審判? なんでさ、男だろそいつ?」
「いーや、別に。なんとなくさ」
昨日本人から軽くあの事は聞いたんだが、別に今詳しく話すことでもないしな。
「ま、いいけどね。僕は僕でバシッと決めてやるさ!」
「ところで春原」
「ん? なんだよ岡崎。僕の才能に嫉妬してるのかな?」
「なんでお前がここにいるんだ?」
「あんたが呼んだんでしょ!? 僕の幸せと引き換えにしてっ!! どーゆーことっすか!?」
その顔面白いな、お前。
「おはよ、にぃちゃん」
「おう鷹文。ん? 一人か?」
校門側から歩いてきた鷹文に尋ねてみた。てっきり智代や河南子と一緒だとばかり思ってたんだが。
「ううん、三人だよ。そこまではねぇちゃんと河南子、三人揃ってたんだけどさ。そこでねぇちゃんの知り合いに会ってね。
なんだかよくわからないけど、河南子がその人の事をすっごい気に入っちゃったみたいでさ。先に僕だけやってきたって訳」
誰だ? ここにいないメンバーってことは……。
「あー、あいつか……」
向こうから女子三人組が歩いてくるのが見えた。
「鷹文っ! この子、すっごい面白いんだけど!」
「河南子、あまり失礼な事は……」
智代の注意も我関せず。ことみを後ろから抱きしめた河南子はご機嫌だった。
「よう、ことみ。友達増えたみたいだな」
俺の挨拶に、ことみはいつものやりとりを繰り返す。
「こんにちは朋也くん。河南子ちゃんとお友達になったの。鷹文くんともお友達になったの。まだ朝なのに、もう二人もお友達ができたの」
「そうか、良かったな、ことみ」
「うん。とっても、とってもうれしいの」
それは周りが幸せになる様な……とてもいい笑顔だった。
「ありゃ? この子もあんたのなの?」
河南子が良くわからん事を言ってきた。なので黙殺黙殺。
「どーゆー意味だそりゃ? あ、そうそう鷹文。お前審判できるか?」
「え? そのぐらいなら出来ると思うけど」
「なら今日の試合は頼んでいいか?」
「岡崎……お前」
きょとんとした表情を向ける鷹文と智代の坂上姉弟。
「うん! わかったよにぃちゃん! 河南子、ほかの人たちにも挨拶しに行こっ!」
「うお!? なんだおめー? 急に元気になりやがって」
咲くように笑顔を綻ばせた鷹文は、河南子を連れて渚達の方へ歩いていった。
「岡崎」
その場に残ったのは俺と智代とことみの三人だけだ。
「ありがとう。本当に」
「……何の事だ?」
「ふふふっ」
まったく、何でもないっていうのに。
「さ、俺達も。ほら、ことみも」
「んん?」
約一名だけぽわぽわしていた。けど、それでいいさ。
「私達もみんなのところに行こう、一ノ瀬」
「うん、わかったの。智代ちゃん、朋也くん」
「あれ? 早苗さん、オッサンは?」
「はい、相手チームの方々を出迎えに行きました」
皆の場所に戻ってくると、オッサンに引き連れられた他校の学生がやってくるところだった。
「聞けガキンチョ共! こいつらが本日のゲスト様、リトルバスターズだ!」