「それでは本日の対戦相手について、いくつか注意事項があります」

 

 ワゴン車の中。西園さんが対戦相手に関する研究成果を発表し始めた。

 

「まず第一に、選手名『あっきー様』。この方は古河ベイカーズの代表でもありエース、並びに高打率の名実ともに最重要人物です」

「こーだりつ? なんだそれは? 新手のポジションか?」

「違うよ鈴。高打率、簡単に言うとその人はヒットを打つ可能性がとても高いっていう意味だよ」

「むー。強敵というコトか」

 

 ピッチャー鈴。順調にリトルバスターズのエースとして責任感を持ち始めているみたいです。

CLANALI  第十三話

「得点圏に出塁がある場合のこの方の打席は、敬遠するというのも手段の一つと思いますが」

 

 西園さんが話題に上っている選手への対抗策を提示してきた。

 

「そうだな。勝ちに拘るのならそれが正しい戦術だとも思うが。理樹、お前はどう思う?」

 

 恭介が運転しながら僕に話しかける。

 

「うん、僕もそう思うよ。だけど僕達のチームは勝つ為だけに結成されたチームじゃないよね?」

 

 僕達自身が楽しむ為、出来ることなら一緒に参加したみんなが楽しめるように。

 野球チームではあっても、僕達はリトルバスターズなんだから。

 

「うん、理樹くんの言いたいこと、私もなんとなくわかるよー。楽しいことや嬉しいこと、ぐるぐるーって連鎖させていきたいよね?」

「そうだな、もちろん試合だ。勝つ事が目標なのは大切だがそれだけじゃない。……出来ることなら、正面からぶつかりたいな」

 

 小毬さんの意見に追随する恭介。そんな恭介の問いかけを受け、みんなは一斉に頷いた。

 

「そう仰られると思っていました。それでは具体的な対処法ではなく、注意選手の特徴をお伝えすることにします」

「ああ、そうしてくれ。鈴、しっかり聞いておけよ? お前がうちの要だ」

「わかった。きょーすけ、お前も気をつけろ。小さい子しか好きになれないのはどうかと思う」

「わふっ!?」

 

 鈴、朝のことは忘れてあげようね?

 それとクド、そんなに体を縮こまらさなくてもいいと思うよ?

 

 

 

 

 

「……以上です。みなさん、本日も頑張ってください」

 

 その言葉がミーティング終了の合図だった。

 

「よっしゃあ! 任せておけ! 今日の俺は一味違うぜ。意気揚々に運否天賦だ! 俺に付いて来きな!」

「「「……」」」

 

 真人? テンションが上がってきてるのはいいけれど、それだと結局運任せって意味だよ?

 

「まぁこいつにはその言葉が似合うと思うが……。西園、先ほど『坂上』という女性が出たのは間違いないな?」

「なんでしょうか宮沢さん? 人物像だけで心の琴線に触れてしまいましたか?」

「ほぅ?」

「違う。来ヶ谷も獲物を見る目つきを向けるな。……坂上智代。彼女の名前は今までに何度か聞いたことがあってな。

 なんでも武芸百般で性格実直、生徒会長まで務める猛者だという。一度この目でその人物を見てみたかったんだ」

「へぇー、謙吾くんがそこまで女の子をべた褒めするとはねー。ちょっと意外デスヨ」

「縁というものは不思議なものだな。この様な形で出会えるとは楽しみだ」

「謙吾少年、きっとその御仁は巫女服がたいそう似合うのだろうな」

「あぁ、楽しみ……って来ヶ谷! 俺はその様な邪な考えなど……そこっ! 微妙に離れるんじゃない!」

 

 特に緊張もなく。いつものままな僕達を乗せ、車は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「到着だ。みんな、お疲れ」

「そんなことないですーっ。恭介さんこそお車の運転、おつかれさまでしたー!」

「クド公の言うとおり! いつもアリガトねっ!」

 

 到着した学校は坂の上に建てられていた。

 敷地内に車を止める恭介。

 車から降りた僕達を出迎えてくれたのは、この学校が持つ……いや、この町が持つ不思議な空気だった。

 

「それにしてもあの入り口、随分と長い坂道だったなぁ」

 

 僕の呟きに答えたのは、日傘を取り出した西園さんだった。

 

「そうですね、歩いての登校ですとわたしには少々厳しいものがあると思います」

「うん、ここの学生達は真夏とか大変なんだろうね。でも出来れば今度、春にでも来てみたいかな」

「同感です」

 

 この坂で見かけたのは、丁寧に飢えられていた桜並木だった。

 あの桜が一面に咲いている学校への上り坂。そんな光景を想像していた。

 

 

 

 

 

 

 先ずは相手方と挨拶を、という事でみんな揃ってグラウンドへ。

 

「……」

 

 鈴は困ってる様なそわそわしてる様な微妙な表情だ。

 

「大丈夫? 鈴、緊張してる?」

「そんなことないぞ。……うん、ないぞ」

「安心していいからな、鈴」

 

 恭介が鈴に振り返る。

 

「チーム代表者はおもしろわけからん人物だ。きっと親近感を抱くさ」

「……うっさいぼけぇ。きんちょーなんかしていないからな。ホントだからな」 

 

 鈴の反応に苦笑していると、グラウンドと思しき方向から人影が近づいてきた。

 

「よお! ご到着だな、棗」

 

 気さくに声を掛けてきたのは相手チームの代表者だった。

 

「はい、今日はよろしくお願いします。古河さん」

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