「なるほどなるほど。その結果、君は三人に対しての『絶対命令権』とやらを手に入れたのだね、恭介氏」
「ああそうだ。ただ、代償は大きかったぜ。俺たち全員、誰も止められない告白大会をわけわからんテンションでやっちまった……」
「是非その場に居たかったものだよ」
「勘弁してくれ来ヶ谷。お、理樹達だ」
翌朝。真人や謙吾と一緒に食堂に行くと、既に恭介と来ヶ谷さんが席についていた。
「おはよう、恭介に来ヶ谷さん。早いね二人とも」
「ああ、おはよう理樹。なんせ今日は車の運転があるからな。車も上手い具合に借りる事が出来て万々歳だな」
「おねーさんはその付き添いだ。早起きは得意ではないのだが、おかげで中々興味深い話を聞くことが出来たから十分満足だよ」
来ヶ谷さんはそう言って恭介の顔を流し見た。
って! もしかしてその話って!?
「オイ恭介! まさか昨日の事、来ヶ谷に話しちまったのか!?」
「む。それは聞き捨てならんな」
真人と謙吾が恭介に詰め寄る。
「なに、大した事は聞いていないさ。安心するといい」
「よりにもよって地獄の断頭台姉御に……」
あ、来ヶ谷さんの目が細まった。
「それはどの様な意味かな『メイド主義』君?」
「うあっ!? すみませんっ! なんでもありません!」
自分の弱点……というか趣味嗜好を暴露された真人は、瞬時に白旗を上げていた!
「ふっ。その様な変質的な嗜好をしているからだ。自業自得だな」
「それは君もだろう? 『純愛巫女』君?」
「なっ! いやっ! それは違っ!」
「もちろん巫女さんは『はいていな……」
「申し訳ありませんでしたあぁーー!! ぐぁ……俺の、俺の武士道は……っ!」
謙吾も陥落。ホント来ヶ谷さんは容赦がなかった。
「はっはっは! やっぱり面白いなっ! お前たちのリアクションはっ!」
恭介。手負いの獣は怖いんだよ……?
心底楽しそうに笑う恭介。そんな彼の肩に大きな手の平が二つ乗せられた。
「「それはアリガトウ。『ロリが誇りさっ!』クン」」
「やっぱりそうなのか! この変態兄貴っ!」
真人謙吾同盟によって恭介のアレが宣言されると同時に、みんなが食堂に入ってきた。
先頭にいたのが鈴だったのはタイミングが良すぎる……。
「待て! 鈴! 話を」
「近寄るな変態! 特にクドにだ!」
もはや恭介の言葉は鈴に届かないのかな……。
「わふっ! その担当はやっぱり私なのでしょーか!?」
「お答えしてもよろしいのですか? 能美さん?」
「そこはかとなく残念な気がしそうなので、えんりょさせていただきますー……」
「大丈夫、大丈夫。 心配いらないよ、クド公。自覚のあるロリ好きさんは、自覚の無いロリ好きさんよりきっと大切にしてくれるヨ?」
「三枝も待て! って西園……その表情も待ってくれ……」
「はぁ。この様な性癖告白は、なにぶん初めてなものですから……」
いったいどこからつっこめばいいんだろうか?
女性陣の連続攻撃の前に膝を屈している恭介を視界の隅に止めつつ、僕は自分のつっこみ能力に疑問を感じていた。
「……というのが今日の流れだ、みんないいか?」
食後、恭介からの伝達が終わったんだけど、周囲からの反応は至って残念なことになっている。
「「「「……」」」」
即ち、無言。
「そろそろ泣いていいか……?」
恭介の呟きが僕達男性陣全員の身を引き締める。他人事ではないからだ。
結局昨日のゲームを発端とした被害は、どういうわけか優勝した恭介が一番の被害者になった。
そもそもあのルールが原因とも言えるわけだから、因果応報とでも言うんだろうか?
僕は自分に話が降りかかって来なかった事に対して人知れず胸を撫で下ろしていた。
「準備ー♪ 準備だよーりんちゃーん! 一緒に用意しよー」
「いいぞ、こまりちゃん。クドもみおも一緒に行くぞ」
「おおっとー! ここでこの私、はるちんを忘れもらっちゃ困るなー!」
「はるかはうるさい」
「ひどっ」
かしましい声を耳にしつつ、僕も自分の部屋に戻ろうと席を立った。
「少年」
「え? 何? 来ヶ谷さん」
そんな僕に声を掛けてきたのは来ヶ谷さんだ。彼女は僕の耳にそっと顔を近づけて……。
「少年の煩悩、おねーさんはキライではないぞ……」
艶やかな声でそっと吐息を当ててきた。
ごめん。誰か教えて。これで顔が赤くならない方法があるなら誰か助けて。
熱く火照った顔のまま一人食堂に残された僕は、結局時間ぎりぎりで集合場所に到着した。
来ヶ谷さんにはこれ見よがしに弄られたし……なんだかなぁ、もう。