「渚、何か手伝うことはないか?」
「ありがとうございます、朋也くん。それではお皿を出していただけますか?」
俺が自主的に家事の手伝いをする様になるなんてな。
数ヶ月前じゃ、まったく考えられなかったと思う。
そんな風に変われたのも、きっと……
「渚」
「はい?」
「……ありがとな」
「どうしたんですか朋也くん?」
「いや、何でも無い」
「朋也くんがお礼を言うときは、きっと理由があると思います。何でしょうか?」
時々、やけに鋭くなるというかなんと言うか。
「気にするなって。ほら、料理盛り付けるんだろ?」
「わたしは気になります。お料理も大切ですけど、朋也くんの事はもっと大切な事です」
……まったく。
そんな事言われたら、零れてしまうじゃないか。
「渚、俺はお前と出会えて良かったなって思ってる」
「? 朋也くん?」
今……台所で料理をしている渚を見ていたら……
「どんな事だって適当にして、」
何故だろう。、
「周りの事なんて、先の事なんて気にしない振りをして」
不意に思えたんだ。
「今まで、ずっと一人で。でも……」
何かが見えたような気がしたんだ。
「俺は、お前に出会えた」
俺と、渚と。
「変われたんだ……」
そして、もう一人。
「お前と、この家族を知って」
誰だろう。
「こんな俺でも」
わからない……けど。
「幸せってやつを」
その光景は。
「見つけられそうなんだ」
とても……
「とても……」
大切な事を。
「大切な事を」
「朋也くん……」
渚が俺に歩み寄る。
二人の距離が、段々と、零に……。
「……早苗さん?」
「……はい?」
渚の後ろに、凄い笑顔の早苗さんがいた。
「えと、いつから見てたんですか?」
「ラブラブですねっ!」
「小僧……」
勿論。早苗さんが帰っているってことは、渚の父親であるこの人も帰ってきているってことで……
「め……」
「め?」
「めでてぇじゃ、ねぇかよ……」
さて、どんな顔してこの人と飯を食べりゃいいんだ?
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末さまでした」
早苗さんと渚はいたっていつも通りだった。
古河家の女性は、時々えらい強く見える。
「「ご、ごちそうさま……」」
対照的に動揺ありありな俺とオッサン。声までハモってしまう。
「「……」」
気まずい。
「ま、まぁ、アレだ。アレ。ヒ、ヒューッ。朋也くん、ヒューッ!!」
落ち着け、オッサン。
「あ、あは、はは……は……」
俺も落ち着け。
「秋生さん」
「さ、早苗?」
「やっぱり、幸せですねっ!」
「……あー。……ったく、仕方ねえな」
オッサンは何かすっきりした顔になり、力強く頷いた。
「ったりめーだ! な、小僧!」