「ほう……。これはこれは……」
まさに直球な一言だった。
声を発した秋生は顎に手を当てて、視線を女性陣へと向けている。
その眼差しはいやらしくもあり温かくもあった。
対照的にそわそわと落ち着かないのは軟派と硬物の両名だ。
「凄い……。アレは反則ですぜマイフレンド……!」
「同意を求めるな同意を」
春原に声をかけられた謙吾は視線を泳がせている。どうやら女性陣を直視できないらしい。
ほかの男性陣はというとそれぞれが思い思いの行動をとっていた。
恭介や朋也は最愛の女性と談笑しており、真人は既にクドリャフカとのじゃれあいを始めている。
そして理樹は二人の女性に引っ張られていた。
まったくもって色々な意味で夏真っ盛りな光景だった。
「どうだ少年。眼福だろう」
行動を起こしたのは来ヶ谷だ。にやにやとした笑みを浮かべながら謙吾との距離を縮めてくる。
その身体を惜しげもなく強調しつつ。
そう、惜しげもなく。
いや、惜しげもなく。
来ヶ谷のその姿は、正に規格外だった。
豊満……という単語では収まらない、はちきれんばかりの胸元に目がいってしまうのは生物としての性か。
申し訳ありません自分は水着です、と控えめに胸を覆っているのは白いビキニタイプの水着だ。
白い水着というものが成熟した肢体にここまで似合うものだと誰が想像できるだろうか。
上下揃って青く縁取られているその水着は、なにはともあれ面積が少ない。
いや、けして下品なイメージとして小さいわけではない。
あまりにも内容物が大きすぎるのだ。
夏の日差しを受けてうっすらと汗ばんでいる丘陵が、魅惑的でありつつも清楚な白と馴染み合っている。
その調和が来ヶ谷の眼差しをより一層引き立てており、挑戦的なまでに世界を席巻していく。
主に男性陣の。
来ヶ谷の背後に隠れているのは西園だ。
はぁ、世の中大きさが全てですか、とでも言いたげな表情を見せている彼女だったが、それは大きなミステイク。
淡い水色のワンピースタイプを着こなしている彼女だが、けして差しさわりのないデザインというわけではない。
俗にAラインと呼ばれる水着を彼女が選んだ。それがどれだけの冒険だったか。
遠目で見るとアルファベットのAのように見えるそれは、首回りでトップ部分を吊り下げている。
言ってしまえば首回りだけで、だ。触れればどうにかなってしまいそうな華奢な肩が大胆に露出しているではないか。
ボトムへ向けて広がりをみせていくデザインは、腰回りに装飾されているフリル状のスカートで臨界点を迎える。
慎ましさと冒険心。彼女の水着が無言の主張を繰り出している。
これはトップ部分のボリュームが大きくないからこそ映える、至高の一品なのだ。
二人の影からひょっこりと顔を覗かせているのは葉留佳だった。
普段のイメージからは想像しにくいことだが、実際のところ葉留佳はセックスアピール的な意味での羞恥が強い。
水着を選んでいた時は同伴者が女性だった為、勢いも後押しした大胆なタイプを選んでしまっていた。
しかし今は男性の目が溢れている。だから彼女は気後れしていたりする。
原因である水着はワンショルダーのセパレートだった。
ビキニよりは布面積が広いものの、ワンショルダー、すなわち片側だけの肩紐がコケティッシュな魅力を見せている。
薄紫の水玉模様な自らの水着を気にしつつ、やはは、と口籠りながら全身を衆目の元に現す葉留佳。
その困ったような精一杯の笑顔は、周囲に微笑みをもたらしていく。
あたかも普段の彼女が作り出す空間のように。
不意に真人が零した一言は、可愛いじゃねーかクー公。
その言葉に両手をわたわたさせているのはクドリャフカだ。
あらゆる部位がお子様な彼女だが、今日はちょっとがんばったねと褒めてあげたくなる姿だった。
デニム生地のタンキニを纏ったクドリャフカは、大人びた小悪魔、とでも表現するべきか。
ポケットなどが装飾されている濃紺の水着は、彼女の幼さを引き立てるのではなく別の感性を際立たせている。
可愛らしさを隠しきれないマニッシュ。
幼い頃、男の子に混ざって一緒に遊んでいた少女が、雰囲気そのままに女性として育ってきた。
そんな幻想を抱かせる最後の聖域をクドリャフカは体現していた。
豊満でなくても魅力とは生まれるものだと。あらゆる意味で奇跡なのだと。
だからと言ってボリュームという言葉が罪なのではない。
無意識に無垢な煽情を醸し出しているのは小毬だった。
来ヶ谷ほどの戦略兵器を持ってはいない。が、彼女の武器は青少年達にとって目のやり場に困ること請け合いだ。
万が一その部位に触れる事があったとしたら驚愕することだろう。
ほんわか乙女な彼女が、まさかこれほどのモノを育んできたのか、と。
着痩せ。この単語が完全な善意として当てはまる事はどのような幻想なのか。
明るい桃色が彼女の動きに合わせてひらひらと舞い踊る。幾重ものフリルがビキニをお伽の世界へと導いていく。
フリルの隙間から顔を覗かせるという双丘というシチュエーションは、秘匿された夢を連想させるのだ。
そんな少女が無防備な笑顔を見せてくる。
これは罠か。罠なのか。理性では理解しているが、見せつけられたエサは心底美味しそうだった。
明鏡止水への道は、果てしなく遠かった。
己の未熟と共存する道を選ぶべきなのか。
宮沢謙吾はこんなところで人生の岐路へと差し掛かっていた。
同時刻、春原陽平は青い悩みを抱えている友人の隣で、常人離れした集中力を発揮していた。
高校生活を共有してきた友人を見る視線的な意味で。