「真人っ!! そっちに行ったぞ!!」
「きーんーにーくーーーダーーーイブッ!!!!」
「ナイスキャッチだヨ! 真人くん!」
「まーな」
「わふー、さすがのきんにくさんですー」
「まぁーな」
「はっはっはっ、まったく筋肉しか取り柄が無いこともおねーさんどうかと思うぞ?」
「まかせとけ」
「こいつ馬鹿だっ!」
僕たちは朝食を食べた後、早速グラウンドに集まって練習を開始した。
リトルバスターズのみんなはしばらく練習らしい練習もしていなかったのに、とてもいい動きをしている。
特に僕と鈴だ。
僕は正直今までそんなに運動が得意な方じゃなかったんだけど、この野球に関してだけは違う。
真人ほどではないけれどバットを振りぬく力もついているし、恭介と本気のキャッチボールをすることだ出来る。
そして鈴は……とても真っ直ぐな球を投げる事が出来る。
それどころかここぞというときにはニャーブ……カーブといった変化球すら操りだすほどだ。
でも、僕たちは誰もソレがおかしいなんて口にしない。
だって、ずっと、ずっと頑張ってきたんだから。
あの日々の中。
ずっと。
「ぐはぁっ!」
「そこにいるお前が悪い、謙吾。気を利かせろ」
「なんで打順待ちの俺の背中に向かって130㎞オーバーの直球が来るんだ!?」
「お前があたりに来たとしか思えんな。……うん、思えんな」
……頑張ったよ? うん。
「ああぁー!! 俺のリトルバスターズジャンパーに汚れがぁーー!」
「うるさいっ! 練習再開じゃーーー!!」
「西園さん、葉留佳さん、休憩中?」
三塁ベース脇にある木の下で、二人がひとつのノートを読んでいた。
「おおーう、我らがキャプテン、理樹くんじゃナイデスカ?」
なんで疑問文?
「ふたりでみおちんのうれしハズカシ乙女ノートを観賞しているのでありますヨ」
「お、乙女ノート?」
「違います」
相変わらず無駄の無いクールなつっこみだよ西園さん。
「わたしは試合に参加はできませんから、違った形で直枝さん達の力になれればと思いまして」
そう言って西園さんは僕にもそのノートの中を見せてくれた。
「これって……野球の試合内容のまとめ?」
「はい。先ほど恭介さんからお預かりしましたので、内容を確認していたところです」
「しかもこのチームって」
「はい。明日わたし達が対戦することになる、古河ベイカーズの試合内容です」
結構細かいところまで記入されているそのノート、これがあれば事前準備はばっちりだけど。
「こんなの恭介はどうやって手に入れたんだろう?」
「わたしもお聞きしたのですが、恭介さんは『それは禁則事項さ』としか答えていただけませんでした」
また新しい漫画かなにかにはまっているんだろうか?
「うん、じゃあ西園さんにはそのノートの分析をお願いするね」
「まかされました」
「まかされヨー」
明らかに適材適所ではない人物も一緒になって答えてきた。
「葉留佳さんは練習再開」
「えーっ。私、日陰、好き。今はだけどネー」
「来ヶ谷さんとクド、それに葉留佳さんの捕球能力はリトルバスターズにとって大切な要素だからね。もう少し僕と一緒に頑張ってくれないかな?」
「……そっか。 私、理樹くんに期待されてるんだぁ…… うん! お日様の下で青春の匂いを撒き散らしてくるよ!」
そう言って葉留佳さんはとても嬉しそうに駆け出していった。
「じゃあ西園さん、僕も練習に戻るから」
「はい、お気をつけて」
僕も葉留佳さんを追って走り出そうとしたとき、
「相変わらず自然体で女性に優しいですね。天然ですか?」
ポツリとあまり聞こえたくないような言葉が耳に届いた気がした。
よし、振り返るのは無しだ。うん。
「よーし! いったん休憩だ!」
恭介の掛け声でパラパラとみんなが集まってくる。
「うーん、なんかまだ本調子じゃないな。謙吾! グラウンドを大回りでダッシュしねえか?」
「かまわんが、それは勝負か?」
「ほぅ? この無敵筋肉に勝てるとでも?」
「ふっ、みなまで言わすな」
「上等だ」
「ならば」
「位置について」
「覚悟を決めて」
「筋肉と語り合って」
「剣のように」
「よーい」
「とっとと行けっ! 暑苦しいんじゃーっ!!」
「ぶはぁっ!」
「はっはっはー真人よー! 先に行くぞー!」
「おいこら! 汚ねえぞ! くそっ! 待ちやがれー!」
鈴以外はまったく気にせず思い思いに休憩していた。
いつものことだけど。