「ねえ? おもちはいくつ?」
「ふたつで頼む」
彼が答える。
暖か過ぎるほどに暖房を入れた部屋の真ん中には、ほど良い大きさのテーブル。
その上には、実家から手渡されたおせち料理。
彼はそれを肴に熱燗をちびちびやっている。
その状況だけなら年相応以上の親父っぷりなんだけど…ね。
TVから流れるくだらない正月番組を見る彼の瞳は、あの頃のまま。
まるで…あどけない少年のよう。
台所から覗き見るこの光景。
私は……幸せを感じていた……
「少し、私もいただくわ」
食事が一息ついた後、何かそんな気分になって彼のお猪口に手を伸ばす。
「お、珍しいな」
そう言いながらも嬉しそうね。
普段はあまり飲まないけど……たまにはいいじゃない?
「ほら」
「ありがとう」
彼にお酌をしてもらい、お猪口を口に近づける。
ふわりと漂う独特な香りを味わってから、お猪口を両手でくいっと一口。
熱い塊が喉を下って、体の芯から温めてくれる。
そして、まろやかな甘みと旨みが舌の上に残っていた。
「……ふぅ」
うん、こういった感覚も悪くない。
「……」
「…?」
程よく熱を持った眼差しで、彼が私をみつめていた。
「いや、な…」
「どうしたのよ? もう酔ったの?」
「……色っぽいな、と思ってさ」
……馬鹿。
「何? 惚れ直したの?」
内心の動揺を隠したまま、悪戯っぽく切り返してみる。
「何度だって惚れ直すさ……ほら、佳奈多」
「ちょっ!」
彼に手を引かれてぽすんと腰を下ろした先は、私を一番愛してくれる人物の…膝の上。
胡坐をかいているその上に座らされていた。
…背中越しに、彼の体温を感じる。
「馬鹿ね…惚れ直したからって早速愛情表現?」
この位置関係で助かった。
私の顔、きっと真っ赤だ。
「我慢はしない性質だからな」
「…知ってる」
元々完成されていた彼の性格。
でも、どこか危うさも持っていた。
それに気が付いた時、どうにかしてやろうと思った。
だって。
……とても似ていたから。
「で、こんなにも自分に素直になるなんてね…」
「何の事だ?」
「なんでもない」
「…そっか」
「…うん」
力を抜いて体重を彼に預ける。
後ろから回されていた彼の両手が、私の体をやさしく撫でてくれている。
やさしく、慈しむように……
…安心する。
私も、こんなことに幸せを感じるようになるなんてね。
葉留佳には絶対に見せられない姿だけど。
…でも、幸せなんだから、仕方ないじゃない?
「んっ!?」
……いつの間にか、彼の指が私の敏感な部分に達していた。
…もうっ。
さっきの想い、訂正。
やらしく、愛しむように……だ。
「佳奈多……」
私が出してしまったちょっとした声を聞き逃さず、彼は耳元で私の名前をささやく。
いけない。
このままだとまたいつもの流れね。
天性の才能とでも言うのかしら?
毎回毎回、主導権は彼のものだった。
今日ぐらいは…、うん。
とっさに振り返る。
「佳奈、…」
ささやく彼の口を私の口で塞いだ。
更に体重をかけて押し倒す。
「……ん…」
ゆっくりと口を離す。
彼はきょとんとしていた。
その表情が見れただけでも、満足。
「まいったな…そうきたか……」
「恭介…」
「…何度惚れ直させる気だよ?」
「え? きゃっ!」
あれ?
えーと…、え?
くるりと一回転、した?
うそ。
全然違和感なく上下入れ替わってる。
……だからなんなのよ、その才能は……
「ちょっと、恭……ん…」
今度は私の言葉が遮られた。
ってこれじゃまた……、ん……
……ん、……あ……
…駄目……
……………
…恭……
……
「……」
「……」
さて。
言ってもいいわよね? 流石に。
「恭介」
「…ん?」
「貴方は加減という言葉を知らないの?」
「…」
素肌のままで寄り添いあっている上に、私の頭は彼の胸の上。
こんな格好じゃ威厳も何もないけれど。
「何度も言ったわよね? もう駄目って?」
年の初め位、はっきり言わせてもらわなくちゃ。
「ああ」
「それなら、」
「可愛かったぞ?」
「──っ! そうじゃないっ!!」
「あれは佳奈多が悪い」
「どうしてよっ!」
「あんな表情されたら止められないさっ!」
だ~か~ら~っ!! なんでそんなに爽やかに言うのよっ!
「大体いつも貴方はっ……」
まったくもうっ。
でも…
今年も一年宜しくね。
……やんちゃな彼氏さん。