「二木じゃないか」
「あら、棗恭介。 …? 随分と重そうな紙袋ね。 また何か悪巧み?」
「…本当、どんな目で見られてるんだ俺は?」
「日頃の行いでしょ。 何を今更」
「まったく。 お前だって時々は一緒にいるんだから同類だろ? 俺達と」
「甚だしく心外ね。 私は取り締まる側、貴方達は取り締まられる側。 これが同類だとすれば世の中のあり方自体が不安定になるわ」
「また大げさな」
「それぐらいあり得ないという例えよ。 どう? 少しは理解出来た?」
「理解もなにも…ま、いいさ。 ところで三枝の具合はどうだ?」
「…なんで私に聞くの?」
「だって看病に行ってたんだろう? お前が三枝の部屋から出てきたところを来ヶ谷が見たって言ってたぜ?」
「またあの人は…」
「照れるなって」
「照れてなんていません」
「またまた」
「何? そのにやついた顔は?」
「二木は意表を突かれると表情に出るからな。 そういうところ好きだぜ?」
「……はぁ」
「なんだ? お疲れか?」
「貴方の所為でね…」
「相変わらず不思議な事を言うな」
「私にしてみれば貴方の方がよっぽど謎よ。 何? 新しい人種か何か?」
「そんなお疲れ二木におすそ分けだ」
「…もういいわ。 ? 何よこれ?」
「チョコレートだ」
「…なんで可愛らしいラッピングされてるの?」
「貰い物だしな」
「誰からの?」
「誰だろうな?」
「は?」
「いや、今朝教室に行ったら机の中と上に山積みになってた」
「山積みって… そう、今日はバレンタインだったわね」
「義理チョコってやつだろ? こんなに沢山あっても食べきれないしな。 ほら、疲れた体には甘いものだ」
「どう見ても義理には見えないんだけど、これ」
「手が込んでるよな」
「本命なんじゃないの?」
「まさか」
「見てみなさい。 ラッピングした包みだって相当手が込んでいるわよ?」
「義理堅いヤツなんだろうな」
「……はぁ」
「おっ、今日二回目の溜息。 2はぁだな」
「本当に気楽というかなんと言うか… もう行くわ」
「持っていけって。 ほら、コレも」
「貰えるわけないでしょう? いつか刺されるわよ?」
「遠慮するなって」
「してないわよっ」
「じゃあこれも…」
「いらないって言ってるでしょっ!」
「ああもうイライラする! 棗恭介! こっちに来なさい!」
「おおっ!? そんなに引っ張るなって、二木っ」
「コレは義理! コレは本命! コレも本命! コレは…義理! コレは……」
「すげぇな」
「コレは本命! コレは義理! コレとコレ、ここからここまで全部本命!」
「なんでこんな事になってんだ…?」
「なんでこんなに本命ばかりなのよっ!」
「いや、俺に言われても…」
「コレなんてメッセージカードが付いてるじゃない! ちゃんと読む! NGでも返事書く!」
「あ、でもそういうのって…」
「分かった!?」
「あ、ああ」
「はい! これで全部よ。 ……義理6個、本命54個。 打率9割ね」
「打率って…」
「いい? 例え山積みになっていたとしても一つ一つに意味があるの。 それを良く考えなさい」
「う…」
「『う』じゃない。 返事も言えない馬鹿なの?」
「ああ…わかったよ。 ありがとな、二木」
「…感謝なんていらないわよ……」
「って二木。 片付けくらい俺がやるって」
「いいから! 貴方は義理分と本命分を分けて入れる袋でも探してきなさい!」
「そうか、分けておけばわかりやすいよなっ。 えっと、袋…袋……っと…」
「……馬鹿…」
「恭介、入るよ? 今日は僕の部屋に来ないんだね…って何やってんのさ?」
「ん? 理樹か」
「すごいね…これ全部バレンタインの?」
「ああ」
「全部で何個?」
「あ~、確かこっちの袋が6個で、そっちのが54個だったらしい」
「らしい?」
「俺が数えたわけじゃないからな」
「……恭介」
「なんだ?」
「いつか刺されるよ?」
「なんだよ理樹まで……」
「それでこそ恭介なんだろうけどね… ? 袋から出すの? 手伝うよ」
「悪い理樹。 とりあえず全部を確認しておけって言われてるからな」
「誰に?」
「二木に」
「……はぁ」
「溜息まで一緒かよ」
「別にいいけどね……はい、これで全部出したよ。 机の上に置いておくね」
「サンキュ」
「ひ~ふ~み~… ? 恭介」
「ん?」
「こっちは54個入ってたんだよね?」
「ああ」
「1個多いよ?」
「1個?」
「うん、全部で55個ある」
「…? 二木のやつ、あんなしっかり数えてたくせに数え間違えたのか?」
「数えたのも二木さん?」
「袋に戻したのもな」
「…あ~、そういうことか」
「?」
「恭介」
「どうかしたのか?」
「きっとその中の一つ、すっごく素直じゃないチョコが混ざってるから」